「僕は本屋になりたいんだ!」
2015年6月、会社を辞めたときそんなことを考えていた。
小さな本屋さん……。
蔵書数は少ないが、本好きな人が集まって会話のできる本屋。
小さなテーブルやカウンターがあって、ゆっくりと本が読める本屋。
お客さんの好みを聞いただけで、ぴったりの本を提案できる優しい店主。
そんなことをイメージしていた。
だけど、できなかった。
出版業界に吹く逆風に向かっていく勇気が足りなかった。
周囲の反対意見を吹き飛ばすだけの強い意志を持てなかった。
自分の心を誤魔化すように、別の商売でも少しだけ本を取り扱うことができればいいかなと考えた。
本を売らなくても、本のある空間を作ることができればいいかなと言い訳した。
少しでもいいから、本屋と呼べるようなことをしたかった。
だけど、一歩踏み出す勇気がなかった。
あるとき、何かのきっかけで、フリマサイトを使えば、初期投資なしで古本屋らしきことができることを知った。
それで生計を支えるほど売っている人もいるとのことだった。
「ふ〜ん。そんなに稼げるのか」
お客さんと会話できないのはつまらないと思ったが、とりあえずやってみることにした。
やってみると気づくことがたくさんあった。
人気本はフリマ上にたくさん出品されているため、自然と売れる価格帯が形成されていく。
誰よりも安い値段で出品すれば確実に売れるのだが、それでは利益が薄れてしまう。
かといって高ければ売れないし、まるでカードゲームのような駆け引きが面白い。
値段設定で注意しなければならないのが、販売手数料と送料だ。
事前に価格に上乗せしておかないと、売っても利益がない、下手すれば逆ざやになりかねない。
販売手数料は売上金額の一定割合だから、それをあらかじめ上乗せしておけばいい。
送料は商品のサイズや重さによって変わるので、事前にサイズを想定して送料を確定しておく必要がある。特にまとめ売りの時は要注意だ。
フリマサイトが運送会社と提携していて、地域間の価格差が出ないように一律にしているサービスもある。
購入する相手が全国の不特定多数なので、このサービスはありがたい。
というか、これがなければ安定した取引ができないだろう。
半信半疑で数冊出品してみると、なんと!
1時間ほどで最初の1冊が売れてしまった。
「これは、なんか楽しいぞ」
ゲンキンなものである。
フリマサイトの機能には、「ありがとうございます」とか「よろしくお願いします」とか、そんな当たり前の言葉のやり取りが主だが、直接購入者と対話ができる専用メッセンジャー機能がある。
たまに購入者からの、ちょっとした気の利いた言葉などが書かれていると、結構嬉しくなったりするものだ。
僕もできるだけ感謝の気持ちを伝えようと、言葉を選びながら送信しているのだが、古い人間なのか、あのメッセンジャーに表示された文字を見続けると、家で食べる出来合いのお惣菜のような、味気なさを感じてしまう。
手作りの家庭料理の美味しさとは比べ物にならないあの感覚だ。
「やっぱり本当の自分の気持ちを伝えるのは手書きに限るな」
ということに気付き、毎回数行の一筆箋を書いて同封することにした。
結構手間はかかるし読んでもらえるかもわからないが、その本との出会いやら、読んだ得られたことやらをザックリと書いている。
購入者が少しでも参考にしてくれればいいなと、そんな思いで書いている。
完全に自己満足だ。
これは僕にとっては最高のご馳走だ!
たまらなく、ウレシい!
書いた甲斐があったと泣きたくなる!
生きててよかったと思う!
そんなことがあるので、格安本一冊でも買っていただいた方には、手書き一筆箋を送り続けている。
つい先日のこと、購入した方からとてもありがたいメッセージが届いた。
その方は自称読書ビギナーだそうで、僕から購入した本が読みやすく面白いという感想を送ってくれた。
そしてさらに「他にオススメがあったら、ぜひ譲ってください!」
「……」
「ま・じ・か……」
言葉にならないほど嬉しかった。
早速、ビギナー向きの本を6冊ピックアップし「好きな本を選んでください!」とメッセージした。
そしたら、なんと!
6冊全てを購入してくれたのだ。
またまた感動!
そして、寝るのを忘れ、6冊全部に一筆箋を添えて送ることにした。
僕は、フリマサイトを利用して、本を売った。
結果としてはそれだけのことだ。
だけど、それだけではない。
そう思いたい。
僕は、本の売買を通して、人生にとって必要な読書体験を提供したんだ。
いま、どんどん心が貧しくなっていくこの国に必要なことは、こんな人と人の繋がりではないのか。
そんなことを実感した貴重な出来事だった。
フリマ本屋が売るのは、本だけじゃなく、読書体験なんだ。
(了)
フリマサイト
https://www.mercari.com/jp/u/435486544/
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